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さあ、妄想から始めよう:∞プチプチの企画開発者・高橋晋平氏に聞く「妄想とVUCA時代の幸せな働き方」#01

自由奔放で幼かったあの頃、あるいは、誰かに想いをよせたあの時、あなたは「妄想」をした経験があるでしょうか?

いつしか大人になって、常識や固定観念にとらわれたり、目の前の実利や現実と向き合ったりする中で、人は自由な思考や想像を失ってしまいがちです。

2019年9月、「MouMa(モウマ)」というWebサービスのベータ版開発が行われ、2021年7月に正式リリースされました。

「MouMa」は、実現可能性を考えずに「こんな商品があったらいいな」という妄想商品(商品アイデア)を19文字以内の文字で入力し、好きな値段をつけて出品、無料配布されるアプリ内通貨を使ってユーザー間で自由に売買する仮想マーケットです。

IT開発を行う株式会社要と数々のヒット商品を手掛けたおもちゃクリエーター高橋晋平氏(株式会社ウサギ 代表)が共同開発し、現在までユーザー数は約2,000人、投稿された妄想商品アイデア数は62,000件を超えています。

今回、高橋晋平氏に「MouMa」とベースとなっている「妄想」についてインタビューし、その経緯と価値についてお伝えします。

高橋晋平
おもちゃクリエーター(株式会社ウサギ 代表)
Twitter:https://twitter.com/simpeiidea
HP:https://usagi-inc.com/

妄想から始める企画開発


− どのような経緯で
MouMa」は始まったのですか

「MouMa」の元ネタは、僕が普段行っているアイデア発想の手法なんです。

元々は、企画開発のワークショップやセミナー研修で、冒頭のアイスブレイクとしてやっていました。

「発明ゲーム」と名付けているものが、元になっているんです。このゲームは、企画開発やマーケティングを学ぶためにやる遊びのようなものです。

参加している皆さんは天才発明家であり、どんなものでも作れるというルールで始めます。例えば、どこにでも行けるドアを作ることもできるし、タイムマシーンを作ることもできるし、何でも作れるという前提条件のもと、展開していきます。

更にそこから、いくらで売り出すかを提示して、その値段で買いたいと思う人は手を挙げてくださいというゲームになります。

− アイデアだけでなく、価格という条件を付けるんですね

そうです。参加者は、複数の商品に対して、どれだけ手を挙げてもいいわけです。ただ、値付けをすることで、このゲームの価値が変わってきます。

30人ほどのセミナーだとすると、例えば、誰かがタイムマシーンを1000万円と発表したとします。そこで、タイムマシーンを1000万円で買いたい人は手を挙げてくださいと言って、本当に自分がお金を出して買いたい人が5人いたとすると、売上5000万円がその発案者の得点になります。

このプロセスを繰り返し、一番の売上得点を獲得した人が勝ちというところまでが、このゲームなんです。

価値あるアイデアの発想


− 価格条件を設定しない場合と比べ、どのように変わるのでしょうか

これが凄く面白くて、実際にこのゲームではタイムマシーンを発案する人が多いんですが、人によっては価格を1億円と設定するわけです。

そうすると、ローンでもカードでも良いから、本当に1億円支払ってタイムマシーンを買いたい人は手を挙げてくださいというと、あったら良いけど1億円出してまで買うかと考えて、全然手が挙がらないんですよね。結果、その発案者の売上得点は0点になってしまうんです。

今度は、どこにでも行けるドアを売りますと誰かが言ったとします。それを1万円で価格設定すると大体皆さん手を挙げるんですが、売上得点はというと、30万円にしかならないわけです。

これに対して、もうちょっと高くても売れたんじゃないかという意見も出てくるんです。

− 単なるアイデア出しが、欲求と価値の話に発展するんですね

そうなんです。これをずっと繰り返していくと、物を売るということが結構分かってくるというゲームになっています。

誰かが、自動車を5万円と提示すると、安すぎても逆に買いたくないというような気持ちにも気付くんです。買い物でお金を出すという感覚が分かってきます。

商品というものは、買い手にとって、何かしらの欲求を満たしたい、体験をしたい、困りごとを解決したいということと、お金を交換していることにゲームを通じて気付きます。

商品の価格が、そのものの価値より高すぎたり安すぎたりすると、人は買いたいと思わないんです。

MouMa」の原型が、この発明ゲームになるわけですね

「MouMa」を共同開発した要さんの社内で、新規事業を考えるためのアイデア会議のお仕事をさせていただいたことがあって、その時も発明ゲームを行いました。

その中で、自分たちが本当に作りたいもの作ってみようという発想から始めて、色々なアイデアが出たのですが、その中の1つとして、この発明ゲームをプラットフォーム化したら、みんなのアイデア出しや企画を考える練習にもなるし、こういう商品がいくらで欲しいみたいなデータが集まってくると、夢の商品がデータベース化されて、嘘から出た実ではないですが、本当に人が欲しいと思う商品が生まれる可能性もあるのではないかという話になりました。

すぐ作れそうということで、要さんのエンジニアの方々が開発して、結構なスピードで現在の「MouMa」の原型ができました。当時は、デザインも違っていたり、スピードも遅かったりしましたが、それを僕のアイデア出しが好きそうな友達に紹介して遊んでいたら、めちゃくちゃ面白くて、これをサービス化しようとしたのが、「MouMa」の成り立ちです。

企画開発という仕事のジレンマ


− 「MouMa」には、そんな原点があったんですね

原点と言えば、自分のサラリーマン時代から始まった、おもちゃ開発のキャリアの中で考えてきたことが基になっています。

僕の新入社員時代、会社に入って最初、希望していた企画開発部に配属されて、「よっしゃ!新しいおもちゃをガンガン作ってやるぜ!」という夢いっぱいで、あほなんですけど新人だから、やれるかどうかも分からないことをいっぱい提案したんです。

そうすると、「それは技術的に難しいよ」とか「それを作ったら10万円ぐらいになっちゃうよ」とか言われるわけです。あるいは、「それは昔やって失敗したよ」とか色んな理由でことごとくボツになるんですよね。

− 作りたいものより、作れるか・売れるかが求められますよね

そうです。それから経験を積むにつれて、「そうか、こういうのだったら作れるんだ」とか「こういうのだったら売れるんだ」ということが分かってきて、入社から3年も経つと、通る企画を出せるようになっていました。

そうすると、もうみんなと同じこと言い出して、僕がいた会社ではキャラクターグッズをたくさん作っていたから、キャラクターグッズを作ると手堅く売れることも分かってきて、キャラのグッズ提案をしていました。結果、全員同じことを企画する集団になるという感じです。

− その時、仕事に対してどう感じていましたか

新人時代の妄想力は弱くなってしまい、これを作れば何万個売れるだろうということばかり考えていました。

データと睨めっこしながら商品を考えると、仮に売れるものは作れても、やはり新しいものは生まれないし、みんな同じことをやってもつまらないんですよね。

だから、あの何か作れるかどうかも分からないものをガンガン提案していた時の気持ちを忘れずに、バランスが取れる何か新しいものに挑戦して完成させるということをしていました。

妄想からスタートすることを諦めない


− 入社時の熱い想いは残り続けたんですね

そうですね。要は、妄想からスタートして、その99%は叶わないんですけど、1%ぐらいはそれをどうにかこうにかすると、それに近い価値を生み出せるということがあるのではないかと考えていたわけです。

だから、独立・起業した後も、自分が欲しい、あるいは、こんなものがあったら良いなという妄想からスタートして、色々な商品を世に送り出してきました。

凄く喜んでくれるお客さんが必ずいるというものを作るのが、自分の役割だと思っています。今も、妄想から始めてみませんかということを伝えたいという想いが増している感覚はあります。


(次の記事では、新しいものを生み出すワクワクと妄想について高橋氏にお聞きします。)

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